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中堅中小企業のM&Aのメリットとデメリット〜一般の方が知り得ないM&Aの舞台裏④〜

  • 2023/03/02

「中堅中小企業のM&Aのメリットとデメリット〜一般の方が知り得ないM&Aの舞台裏」については、今まで全3回(  )にわたって、中堅中小企業のM&Aにおける売り手のメリット・デメリット、買い手のメリットを説明してきた。今回は、最後に買い手のデメリットについて言及する。

デメリットというのは適切では無いかもしれない、ポジティブな話とネガティブな話と分ける方が理解しやすいかもしれないし、あるいは今回の場合は、買い手のリスクと読み替える方が良いかもしれない。

前回のコラムで、買い手のメリットについて実例に基づきご説明した。あの事例は実際に私が担当した事案に基づく実例であるば、純投資部分の利回りが3割弱という非常に利回換算した場合のリターンが高い事案であった。あちらをご覧になった買収を検討中のあなたは、そんなに儲かるなら買収をどんどんやっていきたい、そのように思うかもしれない。

しかし、世の中、良い部分もあれば悪い部分もあるというのが世の常である。今回はあなたによりフラットに質の高い意思決定をしていただくべく、買い手目線でのM&Aのデメリット・リスクを説明していく。

最初に伝えておくと、会社を譲り受けるという事はリスクの塊を引き受けるようなものである。では、そんなリスクの高い事であれば辞めておこうかと言えばそういう単純なものではなく、リスクが高いが故に高いリターンも追求できるのがM&Aである。大切な事はリスクを特定し、可能な限りそのリスクを低減あるいは排除する形で最終合意を取り付ける事では無いだろうか。

一方、そもそも何がリスクなのか普通の経営者はわからないわけであり、今回はその一部分を垣間見て貰えればそれで良いかなと思っている。

今まで数十件の事案を担当し、色々なトラブルを経験してきたが、その中かあら何点かご説明しよう。

例えば、幹部社員が離反する事がある。売り手社長が、ナンバー2は自分のいう事を聞くと思い込んでいても、実際は異なり、そのナンバー2が社内で不正を働いており、挙句はM&A後に複数の従業員を引き連れて離脱するといった事案を経験している。一方、この事案の場合、買い手が一枚上手で、こういった事象を想定に入れた上での買収であった為、屋台骨を揺るがすような事態には至っておらず、結果として成功と呼べる買収となっている。

あるいは、想定していたような利益が出なかったという事案も経験している。当該事案においては私は買い手のアドバイザーを勤めたのだが、売り手は譲渡に至っては当然高く売りたいというのは自然な状態であり、その為に自身に有利な情報を提供する傾向にある。決して赤字という事では無いが、当初予定していたほどの受注が継続できず当初予定の利益計上ができない結果、投資回収期間が当初想定の2倍程度に膨らんだという事があった。買い手目線に立つと、特に私がよくいう純投資部分(営業権価格+手数料)は五年以内に回収したいというのが本音であるが、そこの試算を間違えると、投資回収期間が10年となり、よほど他の既存事業とのシナジーが見込めない限り、当該投資の意思決定は失敗と言わざるを得ないのでは無いかと思う。

最後にもう一つご説明するならば、譲渡対象会社の主力取引先の剥落による売上の大幅現象という事象である。当該事案においては、譲渡対象企業の主力取引先が二社に偏重しており、その二社で売上の9割のシェアを占めていた。その内の一社の生産体制に大きな方針変更があった為、譲渡対象企業の売上が大幅に落ち込み赤字に転落したという事案である。

一方、取引先の偏重は、買収監査で買い手は認識しており、それを認識した上での買収ではあったが、買収後すぐの売上現象でありアドバイザーである私にも怒りの矛先が向けられる事となった。とは言え、買収後の外部環境の変化まで我々は保証する事はできないし、経営者ならそういった事は理解していると思う。このケースにおいては、買い手目線に立てば色々と打ち手はあったと考えている。

例えば当該主力取引先の継続と引き換えに譲渡対価に一部インセンティブ部分を組み込むであるとか、あるいは、買収前に新規受注の見込み先を選定しておくとかといった事である。

ここでは語りつくせないぐらい、M&Aを巡るトラブルは多く存在する。しかしそういった大小のトラブルを乗り越えながらもやはり年々増え続ける中堅中小企業のM&A。

私はリスクをうまくマネジメントしさえすれば、その買収が貴社の戦略遂行上、戦略的と呼べるのであれば、成長に向けた有効な手段であると考えるし、良い案件はまだまだゴロゴロ転がっているという印象である。

さて、4回にわたり、売り手目線のM&Aのメリット・デメリット、買い手目線のそれについて述べてきたが如何だっただろうか。ここではご説明しきれない事も数多くあるので、もし疑問に思う事などがあればお問い合わせをドンドンいただければと思う。